「ついに自由に歩けるようになった!」
前回の記事でスムーズロコモーション(自由移動)を実装し、意気揚々とVRプレビューを起動したあなた。
まずは移動機能を実装したい!という方は、こちらの記事から始めてください。
UE5 スティック移動で没入感UP!VRスムーズ歩行の完全ガイド【ブループリント編】
しかし、ヘッドセットを被った瞬間にこんな違和感を覚えませんでしたか?
- 「あれ……? 床が遠い。もしかして私、浮いてる?」
- 「ドアノブの位置が膝くらいにある。巨人になった気分だ……」
- 「ちょっとスティックを倒しただけで、新幹線並みのスピードで壁に激突した!」
- 「……うっ、気持ち悪い(VR酔い)」
おめでとうございます。これは誰もが通る**「VR開発の洗礼」**です。
Unreal EngineのVRテンプレートは、様々な規模のプロジェクトに対応できるように汎用的な設定になっていますが、必ずしも「生身の人間」が「リアルな縮尺」で歩くために最適化されているわけではありません。
この「違和感」を放置したまま開発を進めると、プレイヤーは没入するどころか、強烈なVR酔いに襲われ、二度とあなたのゲームをプレイしてくれなくなるかもしれません。
ですが、安心してください。これはたった数箇所の「数値」を調整するだけで、劇的に改善できます。
この記事では、あなたのVR空間を「ただ動ける場所」から**「いつまでも居たくなる快適な世界」へと進化させるための、具体的な調整手順を解説します。これがスムーズ移動実装の完結編**です!
1. 自分が巨人に見える現象を解明せよ!「カプセルコンポーネント」の秘密
なぜ、デフォルトの状態では視点が高く、浮いているように感じるのでしょうか? その犯人は、プレイヤーキャラクター(VRPawn)の体を包んでいる**「Capsule Component(カプセルコンポーネント)」**のサイズ設定にあります。
当たり判定のサイズと「床」の関係
Unreal EngineのVRテンプレートでは、デフォルトでかなり大きなカプセル(高さ約176cm相当)が設定されています。
「身長176cmなら普通じゃない?」と思うかもしれませんが、VRにおけるカメラ(HMD)の位置は、このカプセルの中心や上部を基準に計算されます。さらに、VRでは「現実の床の高さ」と「ゲーム内の床の高さ」を一致させる必要がありますが、カプセルが大きすぎると、その設定がズレてしまい、結果として**「足が地面から浮いている」**状態になりやすいのです。
これを日本人の平均的な感覚や、VRゲームとして違和感のない「引き締まったサイズ」に修正しましょう。
修正手順:数値を書き換える魔法
では、実際にUnreal Engineのエディタで数値を変更していきましょう。
-
VRPawnを開く: コンテンツドロワーから
VRTemplate>BlueprintsフォルダにあるVRPawnをダブルクリックして開きます
-
コンポーネントを選択: 画面左上のコンポーネントパネルから CapsuleComponent をクリックして選択します。
-
詳細パネルを編集: 画面右側の詳細パネルにある「Shape(形状)」セクションを探し、以下の数値に変更してください。
- Capsule Half Height(カプセルの半分の高さ):
88.0→34.0 - Capsule Radius(カプセルの半径):
34.0→34.0
- Capsule Half Height(カプセルの半分の高さ):
「えっ、34cm? 小さすぎない?」 驚くかもしれませんが、これで大丈夫です。ここでの数値は「半分の高さ」なので、実際には高さ68cm程度の当たり判定になります。
VRでは、プレイヤーはしゃがんだり覗き込んだりするため、当たり判定は**「胴体部分」だけをカバーするコンパクトなサイズ**の方が、家具や壁に不自然に引っかからず、快適にプレイできるのです。
重要!「VR Origin」で足元を補正する
カプセルを小さくしただけでは、カメラの位置がおかしくなってしまいます。カプセルの底面と床の高さを合わせるために、カメラの基準点である「VR Origin」の位置も調整しましょう。
-
コンポーネントパネルから VR Origin(または CameraRoot)を選択します。
-
詳細パネルの「Transform(トランスフォーム)」>「Location(位置)」の Z軸 を変更します。
- Z軸:
-34.0
- Z軸:
これで、カプセルの中心から34cm下がった場所(つまりカプセルの底)が床の高さ(0)になります。 この設定により、地面に落ちているアイテムを拾う時も、手が床に埋まったり届かなかったりするストレスから解放されます。
2. 酔わない世界を作る!「移動速度」のリアリティ調整

は、VR開発者の最大の敵**「VR酔い(Vection)」**との戦いです。
スムーズ移動を実装した直後のデフォルト設定は、正直に言って**「速すぎ」**ます。あれはFPSゲームの「走り」の速度であり、VRで生身の人間が体験する速度ではありません。
視覚情報だけが激しく移動し、体が動いていないという「感覚のズレ」が、脳にエラー(酔い)を引き起こします。これを防ぐ最良の方法は、**「速度を現実に近づける」**ことです。
現実の歩行速度は何km/h?
少し計算をしてみましょう。Unreal Engineの距離の単位は「cm(センチメートル)」、時間の単位は「秒」です。 一般的な成人の歩行速度は 時速4km〜5km と言われています。これをUE5の単位(cm/秒)に変換すると……
- 時速4km(ゆっくり散歩) ≒ 約 111 cm/s
- 時速5km(早歩き) ≒ 約 138 cm/s
- 時速8.5km(ジョギング) ≒ 約 236 cm/s
デフォルトの Max Walk Speed は 600 に設定されています。これは時速21.6km! ママチャリを全力で漕いでいるくらいの爆速です。VR空間で常にこの速度で動いていたら、数分で気持ち悪くなるのも当然ですよね。
初心者におすすめの「酔わない」設定値
快適さとゲームのテンポを両立させるために、以下の設定をおすすめします。
-
VRPawn のコンポーネントパネルから CharacterMovement を選択します。
- ※彼は「歩く・走る・落ちる・泳ぐ」など、移動に関する全ての物理計算を一手に引き受けるスペシャリストです。
- VRPawnを開く: コンテンツドロワーから
VRTemplate>BlueprintsフォルダにあるVRPawnをダブルクリックして開きます

コンポーネント一覧の CharacterMovement を選択
コラム:なぜPawnの中にCharacterMovementがあるの? 「Pawn」と「Character」の違いや、なぜCharacterMovementがVR移動に最適なのかを詳しく知りたい方は、こちらの記事が参考になります。 【UE5 VR開発 BP編#2】ポーンとキャラクターの違いは?VRで歩行させる最適解
-
画面右側 詳細パネルの検索バーに「Walk」と入力し、以下の項目を変更します。
Character movement:歩行の項目詳細
*画像のように表示されない場合は、左側の三角マークをクリックすると、詳細が下に表示されます
-
Max Walk Speed(最大歩行速度):
600→300(または250)
- デフォルトの半分以下です。これでも「少し速めの歩き」くらいに感じますが、ゲームとしてはストレスのない丁度いい速度です。
- スティックを全開に倒した時の移動速度になります。
-
Max Walk Speed Crouched(しゃがみ移動速度):
300→150
- スティックを浅く倒した時や、しゃがみ状態の速度も半分にしておきましょう。
- スティックを浅く倒した時や、しゃがみ状態の速度も半分にしておきましょう。
-
*上記の数値は参考値、任意に合わせて快適な速度を探すか、計算して速度を合わせるのも良いですね。
3. もう一つの酔いの原因「勝手な回転」を防ぐ
移動速度を調整してもまだ気持ち悪い場合、**「視点の回転」**設定が影響している可能性があります。
もし、コントローラーのスティック操作とヘッドセットの動きが干渉して、キャラクターが予期せぬ回転をしてしまう場合は、以下の設定も見直してみてください。
【UE5 VR開発 BP編#1】VRゲーム開発時には、これはOFF!VRawnのYaw設定でキャラクターが勝手に動くを解決! この設定をOFFにするだけで、視点と体の動きが分離され、劇的に酔いにくくなることがあります。
まとめ:自分の足で大地を踏みしめる感動を
今回の調整は、地味な数値いじりに見えたかもしれません。 しかし、設定を終えて「コンパイル」「保存」を押し、もう一度VRプレビューで自分の世界に降り立ってみてください。
- 床が、あるべき場所にある。
- 歩き出しても、景色が優しく流れる。
- 机の上の小物が、自然な距離感でそこに存在している。
その瞬間、そこはただの「3Dデータの集まり」から、あなたが実際に**「存在する世界」**へと変わります。
「快適さ」は、どんな派手なエフェクトよりも強力な魔法です。プレイヤーが長時間いたくなるような、居心地の良いVR空間。それを生み出せるのは、細かい調整を積み重ねたクリエイターだけです。
これで「スムーズ歩行」の完全ガイドは完結です。 さあ、最適な体を手に入れたアバターで、あなたの作った世界をゆっくりと散歩してみましょう!
この記事が、あなたのVR開発の冒険の役に立てば嬉しいです。それでは、良きVRライフを!



